【共産車探訪 Vol.4】 GAZ ヴォルガ ①

こんにちは、ちゅうさまです。


先日の宇伊兄の記事で、写真の構図の話がでてきましたね。

このコラムで使っている車の写真は記録が目的なので、所謂「日の丸構図」で撮影した写真が多いのですが、それしか撮っていないワケではありません。でも、見せたい写真がいっぱいある場合は、車の容貌が一目でわかる、日の丸構図の写真を優先して採用するようにしています。逆に、変わった構図の写真が多い回は、「あ、今回は写真少ないな」と思っていただいて正解ということですね。



さて、前置きが長くなりましたが、今回は 「GAZ ヴォルガ (ГАЗ Волга)」 の特集です。


まずGAZというメーカーについてご説明しましょう。GAZの前身は、1929年にフォードのモデルAをベースにした車を生産していた「NNAZ」という会社です。本社がニジニー・ノヴゴロドにあったので「NN」だったのですが、1932年に本社所在地が「ゴーリキー市」という名前に変わったため、合わせて社名も変更されました。その結果が、「Горьковский Автомобильный Завод (ゴーリカフスキー・アフタマビーリヌィー・ザヴォート)」。「ゴーリキー自動車工場」という意味なのですが、長いので頭文字を取って「ГАЗ=GAZ」と呼ばれています。


ヴォルガは、そんなGAZの工場で1956年に産声を上げた、高級車です。名前の由来は、もちろんヴォルガ川。モスクワの北からカスピ海まで流れ込む、「ロシアの母なる川」です。


この車は、50年以上の歴史を持つので、何回かに分けてお話することになりそうですが、今回は初代ヴォルガ「M21型」のお話です。

ではまず写真をどうぞ。

1956-58 GAZ Volga [1st M21] (ヴォルゴグラードにて)


黒いボディ、赤いエンブレム、グリルに輝く星…

前回まで見てきたジグリとは別の方向で共産主義らしい外見ですね。


写真の車は、1956年から1958年まで生産された、前期型です。

前期型の外見上の特徴は、なんといってもグリルにつけられた星でしょう。もちろんこの星は、共産主義の星です。この時代の共産主義国で高級車に乗る人は、おそらく党の関係者でしょうから、その辺の好みに合わせたのかもしれません。


ん…?この星をドーム状のモニュメントに取り換えたら…あれ…?1950年式フォードに似ているような……?

おや、こんな時間に来客が…誰かな?


…気を取り直して、リアビューもどうぞ。

1956-58 GAZ Volga [1st M21] (ヴォルゴグラードにて)


特にコレといった特徴はないのですが、ふっくらとしたスタイリングですね。同じ年代のフォードやGMなどアメ車を見ていただければわかるのですが、1950年代は「ふっくら」が最先端のスタイルだったわけです。流行をしっかり取り入れているんですね。ソ連車のくせに。 


(まあそもそもがパクリだっていう説もあるんですが…)


よく見ると、トランクリッドの横に、小さいテールフィンも付いています。アメリカでは、バカでかいテールフィンで各社競い合っていたのですが、ソ連でもささやかながら真似してみた、といったところでしょうか。

こちらは、ヴォルガのエンブレムとオーナメント。ニジニー・ノヴゴロド州やゴーリキー市の象徴である、鹿をかたどっています。


エンジンは、2.4Lの直列4気筒のものが採用されました。新開発…といいたいところですが、このエンジンは、前任車種である「GAZ ポビェーダ」のものの改良版でした。(ポビェーダについてはまた今度特集します)

前期型のエンジンは、65馬力でした。



トランスミッションは、3速MT3速ATが選べました。


え…?オートマチック?ソ連車で?


ソ連製オートマチックなどという言葉を聞いて考えるのは、みなさんおそらく同じはず。


「すぐぶっこわれそう」


正解です!大正解です!

よく壊れる上に整備工場も多くなかったため、AT車は全体の販売の1%にも届かず、中期型以降ATが生産されることはありませんでした。悲しいなあ。



1959年には、ヴォルガは中期型となります。

1959-62 GAZ Volga [1st M21] (ヴォルゴグラードにて)


前期型の生産開始が1956年ですから、わずか4年でアップデートが行われたわけですね。共産車にしては異例といっていいでしょう。


中期型の移行に際して、フェイスリフトも行われました。基本的なスタイルは変わりませんが、星が付いていたグリルが、格子状のものに変わりました。写真の車はメッキ加工がされていますが、ボディ同色のグリルの個体もあります。メッキグリルはオプションだったのかもしれません。


前期型ではグリルに埋め込まれていたウインカーも、中期型では独立していますね。

1959-62 GAZ Volga [1st M21] (ヴォルゴグラードにて)


リアビューも大きな変化はありませんが、ちょっとした変更はされています。


まず、リアのバッジが太いものに変わっていますね。前期型のバッジは、カモメのような形で文字は書かれていませんでしたが、中期型では「ВОЛГА」と車名が記載されています。


また、テールランプに円柱状の突起も追加されてますね。これはリフレクターです。この世代からは輸出も意識するようになったようで、世界標準に合わせる必要があったのでしょう。(グリルから星が消えたのもそういう理由かもしれません)


エンジンも強化され、70馬力に出力がアップしました。輸出用では80馬力のエンジンを搭載したものもあったようです。



1962年には、後期型へシフトします。中期→後期のスパンもやっぱり短いですね。

1962-70 GAZ Volga [1st M21] (ヴォルゴグラードにて)


今度もフロントグリルが変更されました。中期型の格子グリルより細かくなっていますね。バンパーもより分厚いものに変更されましたが、全体の印象は、よりスマートな雰囲気になったと言えるでしょう。


また、エンブレムの形状も変更されています。中期型までは王冠のような形でしたが、後期型は5角形のものになりました。


写真の車は、ミラーが社外品に交換されています。ぜったい最近の新しい車からムシって付けただろこれ…

1962-70 GAZ Volga [1st M21] (ヴォルゴグラードにて)


後期型のリアです。


まず、テールランプが変更されています。前期型・中期型では二分割されていましたが、後期型ではむき出しのテールランプになりました。中期型で追加されたリフレクターは健在です。


そして、なぜか、リアのエンブレムが前期型のものに戻りました。なんでですかねぇ……経費削減なんですかねぇ…

真相は闇の中。


標準仕様のエンジンは、75馬力になりました。5馬力ずつ増えていくんですね。オプションで80馬力のものも用意されていました。


さらに、後期型では、5.5LのV8エンジンを搭載したモンスターヴォルガも登場しました。このエンジンは、上位車種の「GAZ チャイカ」から持ってきたもので、最高出力は160馬力に達する、一般仕様と比較するととんでもないスペックを持っていました。

ただし、一般に流通していたものではなく、主な納入先はKGBでしたそのため「KGBヴォルガ」などと呼ばれることもあります。



ところで、「ヴォルガは高級車」と書いてきましたが、実際はどのレベルの高級車だったのでしょうか。


1960年当時、ソ連国民の平均収入は、年間約9,800ドルでした(ソース)。当時のレートは「1ルーブル=4ドル」でしたので、ルーブル換算すると、約2,450ルーブルとなります。


一方ヴォルガの販売価格は、前期型が5,400ルーブル、中期型が5,100ルーブル、後期型が5,500ルーブルでした(ソース)。


そうすると、ヴォルガの価格は、ソ連の一般国民の年収の約2倍だったワケです。

日本ならば、2016年の平均所得が411万円だそうですから、年収400万円の人が800万のレクサスLSを買うような感覚でしょうか。ちょっと簡単には手を出せない価格帯です。

ソ連国民も「いつかはヴォルガ」みたいな気分で労働に励んでいたのかもしれませんね。



初代ヴォルガのお話は以上です。次回は2代目ヴォルガのお話をしていきましょう。

今回もありがとうございました。以下、ギャラリーをお楽しみください。


ちゅうさま(2017/06/02)



【Gallery】

1956-58 GAZ Volga [1st M21] (モスクワ交通博物館にて)

前期型ともなると、年式の古さもあって町中で見ることはほぼない。モスクワ交通博物館は、展示車の8割がソ連車という、ちゅうさまにとって天国のような場所。車好きならクレムリンなぞ見に行くより、こっちの方が絶対楽しいと思う。地下鉄10番線のリムスカヤ駅もしくは8番線のプローシャチ・イリーチャ駅が最寄り。

1956-58 GAZ Volga Police Car [1st M21] (モスクワ交通博物館にて)

前期型ヴォルガのパトカー。プレートに記載されている「21В(21V)」というのは、1957年から1958年に生産されたヴォルガのコード。

1959-62 GAZ Volga [1st M21] (モスクワ交通博物館にて)

実はヴォルガには前期型からツートンカラーのオプションが用意されていた。アメ車への対抗心なのかもしれない。なお、中期型のコードは「M21I」となる。

1959-62 GAZ Volga Police Car [1st M21] (モスクワ交通博物館にて)

黄色と青は ”ГАИ” のしるし!卑劣な暴走車を打ち砕く!

中期型ヴォルガの交通警察仕様。プレートに「M21I」と記載されているため、一般仕様と警察仕様でのコードの変更はないようだ。

1962-70 GAZ Volga [1st M21] (モスクワ交通博物館にて)

普通の後期型と比べると、どうにもツルっとしている。モールやオーナメントがないのだ。それらがオプションだったのか、それともこの個体は元々タクシーだったのか。

なお、1962年から1964年までのヴォルガのコードは「M21L」、1965年から1970年までのコードは「M21R」となる。

1962-70 GAZ Volga Taxi [1st M21] (モスクワ交通博物館にて)

同じく飾り気のないこちらのヴォルガはタクシー仕様。この個体は、エンブレムまで簡素化されている。それでいいのかGAZ。

なお、1962年から1964年までのヴォルガタクシーのコードは「M21T」、1965年から1970年までは「M21TS」となる。

1962-70 GAZ Volga Police Car [1st M21] (MIAS-2016にて)

後期型ヴォルガのパトカー。MIASは「Moscow International Auto Salon」の略で、モスクワモーターショーとも呼ばれる。インターナショナルといいつつ、西側諸国のメーカーがほとんど出展していない。海を隔てながらも結んだ腕は、経済制裁に切られてしまったようだ。

この車は、そんなMIASの交通警察のブースに展示されていたもの。

母なる川、ヴォルガ (ヴォルゴグラードにて)

ヴォルゴグラードは「ヴォルガの町」という意味なので、今回の写真はヴォルゴグラードで撮ったものをメインに使用した。


どこまでも続く空、ゆったりと流れる大河…

平和な雰囲気の中、ゆっくりと感慨に浸りたいところではあるが、この町の旧名は「スターリングラード」。何万ものソ連兵が川底で眠っているのだ。




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